宮川のほとり動物病院では周術期の疼痛管理に力を入れています。
宮川のほとり動物病院では『手術で予想される痛みの強さ』や『個々の動物が置かれている状態や性格』等によって周術期の疼痛管理計画を考えています。しかしその一方で疼痛管理はただ計画通りに実施すれば良いというものではありません。ものを言わない動物には手術後の痛みを訴える方法がないため、手術後も動物の状態を観察し、痛みの兆候を見逃さないようスタッフは常に注意を払っています。
周術期とは“手術中”だけでなく“手術前”および“手術後”を含んだ期間を指します。手術における疼痛管理では周術期全体を考慮して計画する必要があります。
術前の疼痛管理
可能な限り先制鎮痛*を実施しています。鎮痛薬によって投与後に十分な鎮痛効果を得るために必要な時間が違いますので、先制鎮痛として必要な時間を考慮して手術の開始を考えています。当院では手術の時間を12:00~16:00に設定しておりますが、飼い主の皆様には手術当日の9:00~10:00にご来院をお願いしております。早めのご来院をお願いしているのは、手術前の最終的な状態の確認と、必要に応じて術前から点滴による脱水・電解質補正をおこなうこと、そして先制鎮痛の必要性を考慮してのことです。
先制鎮痛とは、手術前に鎮痛処置を施すことで、術後の疼痛を防止または減少させる方法です。
神経が痛みの刺激を受けた後に鎮痛処置を行うよりも、痛み刺激を受ける前に鎮痛処置を行なった方が良好な鎮痛効果を得ることができます。手術後の痛みは動物の呼吸を抑制し、血圧を上昇させることで免疫機能や傷の治癒に悪影響を及ぼすことがわかっています。
先制鎮痛では一般的な注射による鎮痛薬の投与の他にも、局所麻酔による神経ブロックやオピオイドを使用した硬膜外鎮痛もおこなっています。
術中の疼痛管理
比較的強い痛みを伴う手術では、手術を行っている最中にも継続した鎮痛処置を行う必要があります。これは全身麻酔によって意識がない状態であっても、手術操作によって痛みを感じるための神経が刺激を受け続けているためです。言い方を変えると、麻酔中の患者が痛みを意識していなくても体は痛みを感じているという事になります。
手術中は血圧や心拍数など各種モニターを確認しながら麻酔深度や鎮痛薬の投与量を細かく調節します。そのために使用されるのがCRI*と呼ばれる手法です。
CRIとは、シリンジポンプを使用して各種鎮痛薬を一定の速度で持続的に点滴することで、鎮痛薬の血中濃度を細かくコントロールしながら行う鎮痛方法です。
様々な薬剤を使えることもあり手術中の鎮痛の主力となるものですが、点滴速度を変えることで動物の状態に合わせた細かな調整が可能であるため、術後~退院に至るまで必要に応じてCRIを行っています。
術後の疼痛管理
手術後の動物が痛みの兆候を示していないか注意深く観察することが重要になります。最終的には内服薬によって鎮痛が可能な状態まで痛みが治まれば退院の運びとなります。
例えば去勢手術等の比較的弱い痛みの手術では、手術後から内服薬に切り替えられることがほとんどです。避妊手術の場合には開腹が必要な手術のため、去勢手術に比べてやや強い痛みの手術と考えられます。手術後は動物の状態を観察し、必要に応じて鎮痛薬の追加投与を行いますので、当院では避妊手術後は1泊の入院をお願いしております。
腫瘍切除や整形外科など、強い痛みが予想される手術では通常の鎮痛薬の追加投与に加えて、術後もCRIを段階的に調節しながら継続しています。