手術は痛い? 周術期からみた疼痛管理 

本日は痛みのお話です。当院もやっと地域に馴染みはじめて患者さんが多くなるにつれ、手術件数も多くなってきました。手術の際に皆様から『この手術は痛いですか?』『うちの子、痛いのは大丈夫でしょうか』と聞かれます。

20年前の獣医療では、まだ動物が感じる痛みについて無頓着な先生が多かったと思いますが、現在では痛みに関する知見も多くなり、ほとんどの動物病院が疼痛管理をおこなって手術を実施しているのではないかと思います。

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もちろん当院では個々の患者に合わせた疼痛管理を実施しています。どんな手術であっても必ず適切な疼痛管理計画のもとで行なっています。

外科手術における疼痛管理を周術期べつにみると、以下の3つとなります。周術期とは手術中だけでなく、手術の前後を含めた手術に関わる期間を示す言葉です。

①手術前の疼痛管理(先制鎮痛)

『手術前には痛み止めは不要なのでは』と思われがちですが、実際には動物が痛みを感じる前から鎮痛を行なうことで最も良好な鎮痛が得られることがわかっています。手術前・痛みが生じる以前から鎮痛をおこなうことから、先制鎮痛と呼ばれています。当院では鎮痛薬がきちんと効き始める時間と手術時間を調整しながら手術をスタートします。手術当日に早い時間から来院をお願いしている理由の一つはここにあるんですね。

また動物が不安を感じるだけでも、手術による痛みは増幅すると言われています。当院ではわんちゃん、ねこちゃんをお預かりする段階から、なるべく不安を感じさせないように接することを常に心がけています。

②手術中の疼痛管理(術中鎮痛)

手術中は全身麻酔のため動物に意識はありませんが、患者が痛みを意識していなくても、手術によって痛みを感じるための神経は常に刺激されています。つまり、意識はなくても体はちゃんと痛みを受け止めている、ということなんです。大きな痛みが予想される手術においては、手術中にも継続した鎮痛を行ないます。手術中の鎮痛には主にCRIと呼ばれる手法でおこないます。CRIとは各種鎮痛薬を一定の速度で持続的に点滴することで鎮痛薬の血中濃度をコントロールする方法です。

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③手術後の疼痛管理(術後鎮痛)

手術後の疼痛管理は『痛みの強さ』と『痛みの感じ方』によって鎮痛レベルと投薬の期間が決まります。非常に大雑把にいうと、一般的に小型犬ほど痛みに弱く、大型犬は痛みに強い傾向があります。手術による痛みの強さはある程度予測ができますので、手術の内容によって疼痛管理計画を立てますが、痛みの感じ方には個人差がありますので、その部分は実際に患者さんを観察しながら鎮痛レベルを調節します。

概ね、痛みを感じる期間は痛みの強さに比例しますので、強い痛みを生じる手術の場合には疼痛管理の期間も長くなります。避妊手術や去勢手術の場合には、比較的弱い痛みの手術であるため、ほぼ全員の患者さんが翌日までには退院しますが、大きな手術の場合には術後も数日間の疼痛管理を継続するケースがほとんどです。そのような場合では、例え術後の患者さんの元気や食欲が良好であったとしても、早期に疼痛管理を終了してしまうと痛みが発生してしまうため、数日間の入院をお願いすることになります。痛みという観点から入院期間を考えた場合には、退院の基準となるのは『自宅での内服薬のみで痛みのコントロールが可能』となった時になります。

簡単にご説明しましたが、以上が当院での手術における疼痛管理です。実際には手術後には定期的に患者さんの様子を確認し、計画通りに鎮痛が達成されているか、そのつど評価をおこなっています。万が一、動物が強い痛みを感じている場合には、適切な方法で鎮痛薬を追加投与することになります。痛みに対する治療は手術を裏から支える大きな柱の一つです。皆様がご心配になる気持ちもあって当然と思います。ご不明な点やご心配な点はいつでも相談してくださいね。

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これは以前にとある獣医師会の教育講演に講師として呼ばれて教育講演をおこなったときの写真です。『挫創患者の疼痛管理・麻酔管理』という演題です。沢山の先生に聞きにいて頂いて、勉強熱心な獣医師の先生が沢山おられることを実感しました。これからも勉強を怠らず地域の皆様に貢献してゆきたいと思いますので、宜しくお願い致します。

 

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