全耳道切除術と鼓室包骨切り術

こんにちは。今日は外耳炎のお話です。犬や猫ではよくみられる病気ですので、皆さんも一度は外耳炎で病院にかかったことがあるのではないでしょうか。

因みに犬の耳の構造ですが

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CTの断層撮影でみるとこんな感じです。初めて見る方にはCTの画像はわかりにくいと思いますが、青い矢印が耳道、赤い矢印が鼓膜、黄色い矢印が鼓室胞(こしつほう)と呼ばれます。

もちろんこれはものすごく大雑把な説明であって、鼓膜の奥には鼓室胞だけでなく中耳や内耳といった構造があり、内耳には半規管があって脳と神経でつながっているため、我々人間を含めた動物は平衡感覚や回転、加速といった動きを感じることができます。耳道のすぐ脇には顔面神経も走行しています。

外耳炎の原因には細菌や真菌の感染が一般的ですが、耳毛が多い・垂れ耳である・耳道のポリープがある、などは外耳炎の発生リスクを高めます。そして一旦炎症が生じると、炎症による腫れや耳垢などが生じ、これらが適切に処置されないと慢性的な外耳炎へと発展します。

慢性的な外耳炎が長期におよぶと、外耳道が狭窄(せまくなる)・鼓膜が破れてしまう・耳の周囲の組織にも炎症が波及して、時には顔面神経麻痺を起こしたり、前庭症状といって眼球が左右に揺れて平衡感覚を失って立てなくなったり、といった問題が起こることがあります。

今回の表題である全耳道切除と鼓室胞骨切り術は、そのような長期に及んだ慢性外耳道炎の結果、内科的には治療ができなくなってしまった患者さんに対して行われる手術です。

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手術前の外観です。耳道は石灰化と炎症で増殖した組織のためにほぼ無くなっちゃってます。これをCTで確認したのが下図です。赤い部分は増殖した組織、青い部分が石灰化して骨のようになってしまった部分ですね。この画像からは分かりずらいのですが、すでに鼓膜は消失しており、鼓室胞の中に軟部組織が入り込んで鼓室の骨を溶かして穴をあけています。

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全耳道切除という術式は、この赤と青で示された病変全体を手術で取り除いてしまうというものです。しかしながらこの部分の全摘出のみでは患者さんの耳は良くなりません。鼓膜の奥に入ってしまった増殖組織や異物、細菌等が完全に除去されないと完治は見込めないため、鼓室胞の骨を大きく削って開放し、きちんと洗浄することが不可欠となります。

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耳道を切除した後の写真では、器具の奥にわずかに鼓室胞が見えています。ここまできたら、あとは不要な組織を取り除いて十分に洗浄すれば術式は終了です。

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摘出した耳道は驚くほど大きく、そして固いです。この手術は合併症が生じることが多く難易度が高いことに加え、手術で生じる痛みも非常に強くなるため、術前からの十分な鎮痛計画が非常に大切になります。この患者さんは両方の耳を手術したのですが、手術の夜からきちんとご飯を食べて数日後には元気に退院することができました。

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手術後は外観もきれいになり、ずっとひどかった臭いもなくなりました。今まではずっと病院に通って洗浄を繰り返していたそうですが、飼い主様の大きな決断と、わんちゃんが大きな手術を乗り越えてくれたおかけで、今後は安心して過ごすことができそうです。今回は手術による救済的な処置の適応となりましたが、外耳炎に対する治療は個々の患者さんによって変わります。炎症の原因や程度によっても違いますし、大人しく耳洗浄をさせてくれるわんちゃんや猫ちゃんもいれば、耳を触られるのがイヤで噛みついてしまう患者さんもいます。うちの子は暴れるから病院に行けない、なんて言っていると病気が進行して治療の選択肢を狭めてしまったり、治療に長い時間がかかってしまうこともあります。まずは早めにお近くの病院に相談するところから始めていただくと、動物病院の先生も治療の提案がしやすくなると思います。

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